日本の給与は妥当か?データと国際比較から見る「豊かさ」の正体

日常

よく平均給与がニュースとかで取り上げられますし、低い低いと声を上げているのもよく見ます。

そこで日本の平均給与が「妥当かどうか」という問いに対しては、単に金額の多寡を論じるだけでは不十分だと考えます。

給与という一面的な指標の裏側にある、雇用の安定性、社会福祉、そして国民が感じる幸福度といった多角的な視点から、日本の現状を分析し、主要国と比較することで、その「妥当性」の本質に迫る必要があります。

今回は、データに基づき日本の立ち位置を客観的に評価し、個人が「住む国」を選ぶ上での判断材料を調査してみました。

第1章:日本の給与の実態 – データから見る光と影

「日本の給与は30年間上がっていない」と揶揄されますが、その実態をデータで詳細に見ていきましょう。平均値だけでは見えない、構造的な課題がそこには存在します。

1-1. 平均給与と中央値が示す「平均的な日本人」の姿

国税庁の「令和5年分 民間給与実態統計調査」によると、日本の給与所得者の平均給与は458万円でした。しかし、この「平均」という数字は、一部の高額所得者によって引き上げられるため、実態を正確に反映しているとは言えません。(あとは一部の所得隠し者も少なからず影響はあると思っています)

より実態に近い指標は、データを大きさの順に並べたときに中央に位置する「中央値」です。民間の調査(doda)によれば、2024年の正社員の年収中央値は380万円です。平均値よりも約80万円も低いこの数字こそ、多くの方が感じる「実感」に近いでしょう。厚生労働省の調査でも、平均所得金額(547万円)以下の世帯が全体の61.3%を占めており、多くの国民が平均以下の収入で生活している現実が浮き彫りになります。

1-2. 性別・年代別の根強い格差

この状況は、性別・年代別に見るとさらに複雑な様相を呈します。特に、年齢を重ねるごとに男女間の差が顕著になる傾向が見られます。

  • 性別による格差: 男性の平均給与は563万円に対し、女性は314万円と、249万円もの開きがあります。これは、女性が出産・育児などでキャリアを中断せざるを得ないケースや、非正規雇用の割合が高いことなどが背景にあります。
  • 年代による格差: 日本の賃金カーブは、典型的な年功序列型を示します。若年層の給与は低く抑えられ、勤続年数と共に上昇するというモデルが、今なお根強く残っているのです。

以下の表は、年代別・男女別の平均年収と年収中央値をまとめたものです。

年代別・男女別の平均年収と年収中央値(2024年)

年代性別年収中央値平均年収
20代男性360万円385万円
女性300万円337万円
全体345万円360万円
30代男性462万円504万円
女性359万円390万円
全体400万円451万円
40代男性550万円601万円
女性380万円420万円
全体450万円519万円
50代以上男性600万円680万円
女性390万円442万円
全体500万円607万円

出典:doda「平均年収ランキング(2024年)」より作成

1-3. 所得階層から見える社会の構造

日本の所得階層で最も多いのは「300万円超400万円以下」(16.5%)、次いで「400万円超500万円以下」(14.6%)となっています。一方で、年収1,000万円を超える層は全体のわずか5.4%に過ぎません。これは、極端な富裕層が少なく、多くの国民が中流階級に集中している(あるいは、かつての中流から下層へと滑り落ちつつある)社会構造を示唆しています。

第2章:世界との比較 – 日本の給与はどの位置にいるのか?

日本の給与水準を相対的に評価するため、海外の国々と比較してみましょう。OECD(経済協力開発機構)の2023年のデータによると、日本の平均賃金は41,509ドルで、34カ国中25位でした。これは、アメリカ(77,463ドル、3位)やオーストラリア(59,408ドル、10位)といった先進国に大きく水をあけられているだけでなく、隣国の韓国(48,922ドル、19位)にも抜かれているのが現状です。

2-1. 米・豪との圧倒的な差

  • アメリカ: 平均給与は日本の約1.8倍です。特にITや金融などの専門職では報酬が非常に高いです。しかし、これは熾烈な競争社会の裏返しでもあります。解雇規制が緩やかで雇用は流動的です。また、国民皆保険制度がなく、医療費が極めて高額であるため、高収入が必ずしも生活の安定に直結するとは限りません。
  • オーストラリア: 正規雇用者の平均給与は約92,000豪ドル(約966万円)、年収中央値ですら約65,000豪ドル(約682万円)と、日本より遥かに高い水準を誇ります。最低賃金も世界最高レベルであり、労働者の権利が手厚く保護されています。一方で、物価、特に不動産価格の高騰が社会問題となっています。

2-2. 追いつき、追い越すアジア諸国

  • 韓国: かつては日本より低い水準でしたが、急速な経済成長を遂げ、平均賃金で日本を上回りました。特に大企業の給与水準は高いですが、その一方で財閥系企業と中小企業の深刻な賃金格差、激しい受験戦争、若者の高い失業率といった社会問題を抱えています。
  • 中国: 平均給与は都市部と農村部で3倍以上の格差があり、一概に比較は難しい状況です。上海や北京などの大都市では、大卒初任給が日本を上回るケースも珍しくありません。しかし、その裏では凄まじい国内格差と、社会保障制度の地域差という大きな課題が存在します。

2-3. ヨーロッパ中進国との比較

チェコやポーランドといった東欧諸国(ヨーロッパの中進国)の平均月収は800〜1,200ユーロ(約12万〜19万円)程度であり、名目賃金では日本の方が高いです。しかし、これらの国々はEU加盟による経済成長が著しく、物価も日本より安いため、生活実感としての豊かさは一概に劣っているとは言えません。

第3章:給与だけでは測れない「豊かさ」の多面性

給与の額面だけで生活の質は決まりません。日本と海外の「豊かさ」を比較するには、雇用、社会福祉、そして国民の主観的な幸福度まで視野を広げる必要があります。

3-1. 雇用の安定性:終身雇用・年功序列の功罪

日本の伝統的な雇用システムである終身雇用年功序列は、近年その形骸化が指摘されつつも、依然として多くの企業で根強く残っています。これは、従業員にとって「安定」という大きなメリットをもたらします。一度正社員として採用されれば、業績不振などよほどの理由がない限り解雇されるリスクは低く、将来設計を立てやすいです。

しかし、この安定性は、労働市場の流動性の低さというデメリットと表裏一体です。能力や成果が給与に反映されにくいため、優秀な人材のモチベーションを削ぎ、企業全体の生産性を停滞させる一因ともなっています。一方、アメリカに代表される欧米諸国では、能力主義・成果主義が徹底されており、転職によるキャリアアップが一般的です。高い報酬を得るチャンスがある反面、常に解雇のリスクと隣り合わせの厳しい競争社会でもあります。

3-2. 社会福祉の充実度:セーフティネットの国際比較

  • 日本: 世界に誇る国民皆保険制度により、誰もが安価で質の高い医療を受けられる点は、大きなアドバンテージです。一人当たりの社会保障支出はOECD諸国の中で21位と中位に位置しますが、医療、年金、介護、生活保護といったセーフティネットが全国民をカバーしている安心感は大きいです。
  • アメリカ: 民間保険が中心で、無保険者も多いです。医療費は桁違いに高く、病気や怪我が経済的破綻に直結するリスクを常に抱えています。
  • オーストラリア: 「センターリンク」と呼ばれる政府機関を通じて、失業手当や学生手当、障害者手当など、手厚い社会保障が提供される「中福祉・中負担」国家です。
  • ヨーロッパ諸国: 特に北欧では、高福祉・高負担モデルが確立しており、教育費や医療費が無料の国も多いです。ただし、その分、消費税は25%に達するなど、国民の税負担は極めて重くなります。
  • 韓国: 公的年金制度が未成熟で、高齢者の貧困率がOECD諸国で最も高いという深刻な問題を抱えています。

3-3. 幸福度という指標

国連が発表する「世界幸福度ランキング2024」で、日本は51位でした。上位はフィンランドを筆頭に北欧諸国が独占し、オーストラリア(10位)、アメリカ(23位)なども日本より上位にいます。一方で、韓国は52位、中国は60位と、日本と近いかそれ以下の順位です。

このランキングは、一人当たりGDP、社会的支援、健康寿命、人生の選択の自由度、寛容さ、腐敗の認識といった多様な要素から算出されます。日本の順位が伸び悩む背景には、経済的な停滞感に加え、社会的な寛容さや個人の自由度に対する主観的評価の低さがあるのかもしれません。

第4章:考察 – あなたにとって「住むのに最適な国」とは?

これまで見てきたデータを踏まえ、日本と他国のメリット・デメリットを整理し、「住むのに最適な国」について考察します。

4-1. 日本を選ぶことの正しさと課題

【日本の良い点】

  • 社会の安定と安全性: 世界トップクラスの治安の良さ、低い失業率、終身雇用に代表される雇用の安定性は、将来設計を立てやすく、安心して暮らす上での大きな基盤となります。
  • 質の高い社会インフラ: 国民皆保険による安価でアクセスしやすい医療、世界的に見ても清潔で便利な公共交通機関、質の高い教育水準など、社会全体のインフラが整っています。
  • 独自の文化と食: 豊かな自然、歴史、そして世界無形文化遺産にも登録された和食など、生活の質を高める文化的魅力に溢れています。

【日本のダメな点】

  • 経済の停滞と賃金の伸び悩み: 「失われた30年」に象徴される経済の低成長により、給与が上がらず、将来への希望を持ちにくいのが現状です。
  • 構造的な格差: 男女間の賃金格差や、正規・非正規の待遇差が依然として大きく、多様な働き方が正当に評価されにくい側面があります。
  • 同調圧力と息苦しさ: 社会的な同質性が高く、「出る杭は打たれる」文化が、個人の自由な挑戦や生き方を阻害することがあります。

4-2. 他の国の魅力とリスク

  • アメリカ・オーストラリア等(高給与・自己責任型):
    • 良い点: 実力次第で高収入を得られるチャンスに溢れています。キャリアの流動性が高く、多様な価値観が受け入れられます。
    • 悪い点: 熾烈な競争社会であり、雇用の安定性は低いです。社会保障が不十分な場合、病気や失業が即座に生活困窮につながるリスクがあります。
  • 北欧諸国等(高福祉・高負担型):
    • 良い点: 医療や教育などの公的サービスが非常に充実しており、生活への不安が少ないです。ワークライフバランスが重視される文化があります。
    • 悪い点: 税金や社会保険料の負担が極めて重く、可処分所得が少なくなる可能性があります。
  • 韓国・中国等(急成長・格差型):
    • 良い点: 経済成長のダイナミズムがあり、新たなビジネスチャンスが生まれています。
    • 悪い点: 熾烈な国内競争と、深刻な経済格差が社会を不安定にしています。

結論:最適な国は、あなたの「価値観」が決める

日本の給与水準は、国際的に見て決して「妥当に高い」とは言えません。しかし、給与の額面だけで国の価値を判断するのは早計です。

もしあなたが、「高い報酬」と「個人の自由な挑戦」を何よりも重視するならば、アメリカのような国が魅力的に映るでしょう。その代わり、常に競争に晒され、生活の安定を自力で確保する覚悟が必要です。

「安定した雇用」と「安全な生活」、そして「充実した社会インフラ」に価値を置くのであれば、日本は依然として非常に優れた選択肢です。給与は急には上がらないかもしれませんが、大きな不安なく、質の高い生活を送れる可能性が高いでしょう。

「手厚い社会保障」と「ワークライフバランス」を最優先するなら、高い税負担を受け入れた上で、北欧諸国を目指すのも一つの道です。

最終的に、「住むのに最適な国」という唯一の正解はありません。存在するのは、あなたの価値観にとって「最適な国」だけです。本稿で示した多角的なデータが、日本の現状を冷静に見つめ、あなた自身の「豊かさ」の基準を問い直す一助となれば幸いです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました