サッカーの試合を見るとき、私たちは「今日のフォーメーションは4-3-3か」「相手は5バックで守りを固めてきたな」といった会話をします。
でも、そのフォーメーションの選択は、本当にチームの勝敗を左右するのでしょうか? それとも、ただの数字の並びに過ぎないのでしょうか?
「アトレティコの4-4-2は堅い」「バルサの4-3-3は美しい」…そんなイメージはあっても、その背景にある真実をデータで見たことがある人は少ないはずです。
今回ご紹介する論文は、世界最高峰のリーグの一つであるスペインのラ・リーガを舞台に、9年間・全3,420試合という膨大なデータを分析し、「どのフォーメーションが現代サッカーの主流なのか?」そして「本当に勝てるフォーメーションはどれなのか?」という、ファンなら誰もが知りたい疑問に、科学的な答えを示してくれました。
参照論文
- タイトル: Evolution of Tactics in Professional Soccer: An Analysis of Team Formations from 2012 to 2021 in the Spanish LaLiga
- 著者/発表年: Gómez-Piqueras, P., et al. (2023)
- 掲載誌: Biology
- DOI: 10.3390/biology12081044
この論文、すごさを3行で言うと
- ラ・リーガ9年分の全試合を分析し、戦術の大きなトレンドを丸裸にした!
- リーグ全体では、堅実な「4-4-2」が新たな主流になりつつあった!
- しかし、王者に輝くトップチームは、攻撃的な「4-3-3」を一貫して選び続けていた!

解説:研究の背景と目的
近年、サッカー界にもデータ革命の波が押し寄せています。選手の走行距離やスプリント回数が当たり前に計測されるようになり、戦術分析もまた、経験や感覚だけでなく客観的なデータに基づいて行われるようになりました。
中でも「フォーメーション」は、チームの戦い方を最も端的に示す設計図です。しかし、そのトレンドがどう移り変わり、結果にどう結びついているのかを大規模に調査した研究は多くありませんでした。
そこでこの研究チームは、世界で最も戦術的と言われるリーグの一つ、ラ・リーガに着目。2012-13シーズンから2020-21シーズンまでの9年間のスターティングフォーメーションをすべて記録し、その変化と、最終順位(優勝、CL出場権獲得など)との関係性を解き明かそうと試みたのです。
解説:ここがスゴい!論文のポイント
この論文が明らかにしたのは、ラ・リーガにおける「戦術の二極化」とも言える非常に興味深い事実でした。
ポイント①:リーグ全体の潮流は「4-4-2」へ
まず、リーグ全体の傾向を見てみましょう。 下のグラフイメージのように、調査期間の前半(2012-17)では、攻守のバランスが良い「4-2-3-1」が最も人気のフォーメーションでした。
しかし、期間の後半(2017-21)になると、その座は「4-4-2」に取って代わられます。2つのフラットな4枚のラインで守備ブロックを固める「4-4-2」は、堅実で大崩れしにくい戦い方を志向するチームが増えたことを示唆しています。

ポイント②:しかし、「勝者」が選んだのは「4-3-3」だった
リーグ全体が「4-4-2」へと流れていく中で、全く違う選択をしていた集団がいました。それが、リーグ王者やチャンピオンズリーグ(CL)出場権を獲得するトップクラブです。
彼女たちが好んで採用していたのは、一貫して「4-3-3」でした。この傾向は統計的にもハッキリと示されており、「4-3-3」はまさに”勝者のフォーメーション”だったのです。
では、なぜトップクラブは「4-3-3」を選ぶのでしょうか? それは、現代サッカーで勝つために必要な「ボールを支配し、主導権を握る」という思想を最も体現しやすいからです。
- 中盤の支配: 3人のMFが作るトライアングルで、数的優位・位置的優位を作りやすい。
- 高い位置からのプレス: 3トップが前からプレッシャーをかけ、相手陣内でボールを奪いやすい。
- 攻撃の多様性: ウイング、インサイドハーフ、サイドバックが絡むことで、多彩な攻撃パターンを生み出せる。
ただし、このフォーメーションは各ポジションに高い技術と戦術理解度が求められるため、質の高い選手を揃えられるトップクラブだからこそ、その真価を発揮できると言えるでしょう。
解説:明らかになったことと今後の可能性
この研究は、「リーグの一般的なトレンド」と「トップに立つための戦略」は必ずしも一致しない、という重要な事実を教えてくれます。
この知見は、今後のサッカー界に様々な影響を与える可能性があります。
- 選手の育成と補強: チームが「4-3-3」を目指すなら、それに適した選手(例:1対1に強いウイング、攻守に貢献できるインサイドハーフ)の育成や獲得が最優先課題となります。スカウティングの基準もより明確になるでしょう。
- 対戦相手の分析: AIなどのテクノロジーを使い、「相手の4-3-3に対して、自チームの4-4-2はどう動くべきか」といったシミュレーションがより高度化していくと考えられます。
- 医療・コンディショニングへの応用: 「4-3-3」のインサイドハーフと、「4-4-2」のサイドハーフでは、求められるスプリントの回数や走行距離が全く異なります。フォーメーションごとの身体的負荷を分析することで、ポジションに特化したトレーニングや怪我の予防プログラムを開発できます。

考察:現場で使う上での課題は?
この論文の結果は非常に興味深いですが、現場の指導者や選手は、いくつかの点に注意する必要があります。
- 「フォーメーションさえ真似れば勝てる」わけではない: 「4-3-3」はあくまで選手の配置を示す数字です。重要なのは、その数字の裏にある「どうやってボールを奪うか」「どうやってスペースを作るか」といったチームとしての約束事です。形だけを真似ても、魂の入っていないシステムは機能しません。
- 選手の特徴が最優先: アトレティコ・マドリードのシメオネ監督が「4-4-2」で大きな成功を収めているように、自チームの選手たちの特徴を最大限に活かせるフォーメーションを選択することが最も重要です。無理に流行りの「4-3-3」に選手を当てはめようとすれば、かえってチームの歯車が狂うこともあります。
- 戦術は常に進化する: 「4-3-3」が”勝者のフォーメーション”として認知されれば、当然、それに対抗するための新しい戦術が生まれてきます。戦術の世界は、永遠に続く「イタチごっこ」なのです。
まとめ
今回ご紹介した論文は、ラ・リーガの9年間にわたる膨大なデータから、現代サッカーの戦術トレンドを鮮やかに描き出してくれました。
- リーグ全体では、堅実な「4-4-2」が主流になりつつある。
- しかし、真の勝者たちは、主導権を握る攻撃的な「4-3-3」を選択していた。
フォーメーションは、単なる数字の羅列ではありません。それは、チームが掲げる哲学の表れであり、勝利を手繰り寄せるための設計図なのです。データ分析という強力な武器を手に入れたことで、私たちはサッカーの奥深さを、また一つ知ることができました。
【免責事項】 この記事は、特定の学術論文の内容を、教育・啓蒙目的で分かりやすく解説したものです。記事内で紹介する練習法は一般的なものであり、個人の健康状態や技術レベルに合わせて実施してください。医療的なアドバイスや専門的なトレーニング指導を提供するものではありません。怪我の予防や治療、専門的な指導については、必ず医師や資格を持つ指導者の助言を仰いでください。



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