「ホームとアウェイでサッカーの戦い方が変わるのは当たり前」。そう思っていませんか?熱狂的なサポーターが後押しするホームゲームと、完全アウェイのスタジアム。選手にかかるプレッシャーや環境が違うのだから、パフォーマンスに差が出るのは当然かもしれません。
しかし、もしその「違い」をデータで正確に捉え、戦術に活かせるとしたら…?
今回は、現代サッカー最高の戦術家と名高いジョゼップ・“ペップ”・グアルディオラ監督が率いるチームに焦点を当て、試合場所がプレースタイルに与える影響を徹底的に分析した画期的な論文をご紹介します。この研究については多くのファンが「肌感覚」で捉えていたことを「反論の余地がない客観的な事実」として証明し、その詳細まで解き明かした点に、この研究の本当の価値と驚きがあると言えるでしょう。
参照する論文紹介
- タイトル: Effect of match location, quality of opposition, and match status on the playing style of teams coached by ‘Pep’ Guardiola
- 著者/発表年: Lorenzo, A., Rey, E., Cárdenas, D., Olivares, J. M., & Resta, R. (2022)
- 論文の要点(3点):
- 課題: 「哲学は不変」と言われるグアルディオラのチームでも、試合場所(ホーム/アウェイ)や対戦相手のレベル、試合状況によってプレースタイルは本当に変わらないのか?という疑問を検証する。
- 方法: グアルディオラが率いたFCバルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・シティの12シーズン、計686試合もの膨大な公式戦データを分析。パスの種類や本数、ポゼッション、攻撃エリアなどのパフォーマンス指標を比較した。
- 結果: 試合場所はプレースタイルに大きな影響を与えていた。特にホームゲームでは、アウェイゲームに比べてパスの本数、ポゼッション時間、ペナルティエリアへの侵入回数が有意に多く、より支配的で攻撃的なスタイルを貫いていることがデータで証明された。
この論文の内容は?
- 名将の戦術を丸裸に! グアルディオラのチームはホームだと、アウェイより圧倒的にボールを支配し、短いパスを多用して猛攻を仕掛けている。
- 哲学にも柔軟性あり! どんな相手にもスタイルを貫くように見えて、実は試合場所や相手の強さに応じて戦い方を微調整していることをデータで証明。
- サッカー分析の未来! 監督の「哲学」という曖昧なものを、686試合という膨大なデータで客観的に分析した、戦術分析の新たな可能性を示した研究。

解説:研究の背景と目的 – なぜ「ホームとアウェイ」を科学するのか?
サッカーにおける「ホームアドバンテージ」は、昔からよく知られています。慣れたピッチ、大観衆の声援、移動がないコンディションの良さなど、ホームチームが有利とされる理由はいくつも挙げられます。
しかし、それがチームの「戦い方=プレースタイル」に具体的にどのような影響を与えているのか、特にグアルディオラ監督のように「ボールを保持して試合を支配する」という明確な哲学を持つチームにおいてどうなのか、これまで深くは分析されてきませんでした。
この研究は、「グアルディオラの哲学は、いかなる状況でも不変なのか?」という、サッカーファンなら誰もが一度は抱くであろう疑問に、テクノロジーとデータという客観的な物差しで挑んだのです。これは、監督の経験や勘といった主観的な要素に頼りがちだった戦術論を、科学のステージに引き上げる画期的な試みと言えるでしょう。
解説:ここがスゴい!論文のポイント – 膨大なデータが語る「ペップ・スタイル」の真実
この論文の最も革新的な点は、12シーズン、3つのビッグクラブ、686試合という、他に類を見ないほどの膨大なデータを扱ったことです。単に「パス成功率」や「ボール支配率」を見るだけではありません。この研究のスゴさを、ピッチの図をイメージしながら見ていきましょう。
一流の戦術アナリストの視点で見ると、この研究は「どこで」「どんなプレーが」「どれくらい増減したか」を明らかにしました。
ホームでの戦い方:ピッチを支配する攻撃的オーケストラ
ホームでは自分たちの得意な事で相手に襲い掛かります。
- 圧倒的なショートパスの洪水: ホームでは、総パス本数が平均して5〜10%増加します。特に顕著なのがショートパスの多用です。相手の守備ブロックの周りで短いパスを無数に交換し、わずかな綻びを見つけては、前線へボールを運ぶ「プログレッシブパス」を差し込みます。これは、相手を完全に押し込み、じっくりと料理するスタイルの表れです。
- 敵陣でのプレー時間UP: ボールポゼッションの「時間」と「場所」も重要です。ホームでは、アタッキングサード(ピッチを3分割した相手ゴールに近いエリア)でのボール保持時間が長く、まるでピッチ全体を自分たちの庭のように使って相手を押し込みます。
- 多彩なフィニッシュワーク: ペナルティエリアへの侵入回数が増加するだけでなく、そこに至るまでのパス交換の回数も増えます。これにより、シュートチャンスの質を高め、より確実にゴールを奪おうとする意図がデータから読み取れます。
小学生や中学生に例えるなら、ホームゲームは「自分の得意な遊び場で、自分たちのルールで遊んでいる」ような状態です。自信を持って、どんどん積極的にチャレンジできるから、良いプレーがたくさん生まれるのです。
アウェイでの戦い方:効率を求める冷静な勝負師
一方アウェイでの戦い方はリスクを冒さず効率を求める冷静になります。
- リスク管理と効率性の追求: アウェイでも高いボール支配率は維持しますが、ホームに比べて総パス本数、特にショートパスの数はわずかに減少します。これは、敵地で無理にボールを繋いで危険な位置で奪われるリスクを避け、より安全で確実なボール前進を選択していることを示唆しています。
- より鋭いカウンターアタック: 自分たちがボールを保持しつつも、相手が前に出てきた瞬間のカウンターを虎視眈々と狙っています。データ上では、アウェイで強い相手と戦う際に、自陣から敵陣へ一気にボールを運ぶ「ロングパス」や「ダイレクトなパス」の割合が増える傾向が指摘されています。ボールを奪ってから素早く攻めに転じる、したたかさも持ち合わせているのです。
- 現実的なゲームコントロール: 支配はするものの、ホームのように相手を圧倒するのではなく、試合のペースをコントロールし、少ないチャンスを確実にものにして勝利を目指す、より現実的で老獪な戦い方にシフトしていると言えます。
これは、アウェイの試合を「相手の得意な遊び場で、少し慎重に戦う」ようなものです。派手なプレーは減るかもしれないけれど、一発のチャンスを確実にものにして勝つための、クレバーな戦い方と言えるでしょう。

解説:明らかになったことと今後の可能性 – 戦術分析はネクストステージへ
この研究が明らかにしたのは、グアルディオラ監督の哲学が「不変の教義」ではなく、状況に応じて最適化される「生きた戦術」であるという事実です。
この分析技術がさらに進化し、一般化すれば、サッカーの現場は劇的に変わる可能性があります。
- 超具体的な試合準備: 対戦相手がホームとアウェイで「どのように」戦術を変えてくるのか、データに基づいて予測できます。これにより、「アウェイのAチームは、後半20分以降にクロスボールが増える傾向があるから、長身のDFを準備しよう」といった、より的を射た対策が可能になります。
- リアルタイムでの戦術修正: 試合中に得られるデータを分析し、「相手のプレースタイルが事前の予測と違う。今すぐサイドの守備を固めよう」といった、監督の意思決定をサポートすることも夢ではありません。
- 選手の育成: 若い選手に「この状況では、データ上こういうプレーが効果的だ」と示すことで、戦術理解度を深める手助けにもなるでしょう。
テクノロジーの力で、これまで見えなかったサッカーの側面が可視化され、より深く、より知的なスポーツへと進化していく未来が待っています。
考察:現場で使う上での課題は? – データは万能ではない
しかし、この素晴らしい技術を実際のチームで使うには、いくつかの課題も存在します。
- データの一般化の壁: この研究は、あくまで世界最高峰の選手と設備を持つ「グアルディオラのチーム」の分析です。同じデータを他のチーム、特に育成年代やアマチュアのチームにそのまま当てはめることはできません。各チームが、自分たちのレベルやスタイルに合ったデータ分析手法を確立する必要があります。
- 「なぜ?」は教えてくれない: データは「何が起きたか(What)」を客観的に示しますが、「なぜそうなったのか(Why)」の答えは教えてくれません。アウェイでパスが減ったのは、監督の指示なのか、選手の心理的なプレッシャーなのか、あるいはピッチコンディションのせいなのか。その背景を読み解くのは、やはり人間の指導者や分析官の役割です。
- コストと人材: 高度なデータを収集・分析するには、専門の機材やソフトウェア、そしてそれを使いこなすデータサイエンティストのような専門人材が必要です。すべてのチームが簡単に導入できるわけではないのが現状です。
これらの課題を乗り越え、データと現場の知見を融合させることが、今後のサッカー界の発展にとって重要な鍵となるでしょう。
まとめ – データが拓く、サッカーの新たな地平線
今回は、名将グアルディオラの戦術哲学をデータで解き明かした論文を紹介しました。
- ホームでは超攻撃的に、アウェイでは冷静に。
- 哲学は持ちつつも、状況に応じて戦い方を最適化している。
- データ分析は、未来のサッカー戦術を大きく変える可能性を秘めている。
「サッカーはミスのスポーツ」と言われますが、テクノロジーとデータの力は、その「ミス」を減らし、「再現性」を高める手助けをしてくれます。それは、選手のプレーを縛るものではなく、むしろ選手の才能や監督のアイデアを最大限に引き出すための新たな翼となるはずです。
データという新しいレンズを通してサッカーを見ることで、私たちはこれまで以上にその奥深さと魅力に気づかされるでしょう。スタジアムで、テレビの前で、次はこのチームがどんなデータを見せてくれるのか、ワクワクしながら観戦してみませんか?
【免責事項】 本記事は、特定の研究論文の内容を、専門知識のない読者にも分かりやすく解説することを目的としています。紹介する情報は一般的な知識提供を目的としたものであり、個別の医療アドバイスや診断、治療を代替するものではありません。ご自身の健康やトレーニングに関する判断は、必ず専門の医師や資格を持つ指導者にご相談ください。本記事の情報に基づいて生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いかねます。




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