【論文解説】ホームランは「筋肉」だけじゃない。科学が解き明かす”力の波”の正体

その他スポーツ

オールスターが始まりましたね!やはり真剣勝負もいいですが、オールスターのようなお祭りも見逃せません。という訳でサッカーではなく、たまには野球についても調査してみました。

やはり野球選手の永遠の憧れは「ホームラン」ではないでしょうか。

「もっとパワーがあれば…」 「どうすれば飛距離が伸びるんだろう?」

多くの選手が筋力トレーニングに励む一方で、小柄な選手が驚くような飛距離のホームランを打つことがあります。これは一体なぜなのでしょうか?

もし、ホームランを打つための「理想的な体の使い方」を、データで解き明かせるとしたら…?

今回ご紹介するのは、まさにその謎に迫った最先端の研究です。

参照する論文紹介

  • タイトル: Kinematic Sequence of Youth Baseball Hitters (青少年野球打者の運動連鎖)
  • 著者/発表年: Gretchen D. Oliver, et al. / 2019年
  • 論文の要点(3点):
    1. 課題: 速いバットスイングを生み出すために、体の各部分(下半身、体幹、腕)がどのように連動して動くべきか、その理想的な「力の伝達順序」は何か?
    2. 方法: ユース世代の野球選手を対象に、3Dモーションキャプチャ技術を用いてバッティング動作を精密に解析。体の各部位が回転する速さと、そのピークが訪れるタイミングを計測した。
    3. 結果: バットスピードが速い選手ほど、「①骨盤 → ②体幹 → ③腕 → ④バット」という順番で、動きのピークが波のように伝わっていく、理想的な運動連鎖(キネティックチェーン)が確認された。

この論文、すごさを3行で言うと

1.ホームランの秘訣は、筋肉の大きさだけでなく「力の伝達効率」にある。

2.速いスイングは「骨盤→体幹→腕」という”力の波”が順番に伝わることで生まれる。

3. 特に「体幹(お腹周り)」の鋭い回転が、爆発的なバットスピードを生み出すカギ。

解説:研究の背景と目的

なぜこの研究が重要なのでしょうか?

これまで野球の指導は、「腰を回せ!」「壁を作れ!」といった、指導者の経験や感覚に基づく言葉で語られることが多くありました。もちろん、それらは非常に重要なアドバイスです。しかし、選手によってはその言葉の解釈が異なったり、そもそもどう体を動かせば良いのか分からなかったりするケースも少なくありませんでした。

この研究の目的は、その「感覚」や「コツ」を科学の目で可視化することです。

3Dモーションキャプチャというテクノロジーを使って、一流選手が自然と行っているであろう「効率的な体の使い方」をデータで証明し、誰もが理解できる「ホームランの設計図」を描き出すこと。それが、この研究が目指したゴールなのです。

解説:ここがスゴい!論文のポイント

この研究の最も革新的な部分は、「運動連鎖(キネティックチェーン)」という現象を、具体的なデータで示した点にあります。

運動連鎖とは、簡単に言うと「力の伝わり方」のことです。 イメージしやすいように「鞭(むち)」を思い浮かべてみてください。

鞭をしならせるとき、手元のグリップ(①)を小さく鋭く振ると、その動きが波のように伝わっていき、先端(③)ではものすごいスピードになりますよね。バッティングもこれと全く同じ原理です。

  1. 地面を蹴る力で「骨盤」が回転する(グリップを握る手元)
  2. その回転が「体幹(胴体)」に伝わり、さらに加速する(鞭のしなり)
  3. 体幹の力が腕に、そして最終的に「バット」に伝わり、最高速度に達する(鞭の先端)

この論文は、バットスピードが速い選手ほど、この「①骨盤 → ②体幹 → ③腕」の順番が見事に守られていることを発見しました。そして、特に重要だったのが、②体幹と③腕の間の力の伝達です。体幹の回転速度のピークと、腕の回転速度のピークの間の時間が短いほど、つまり、体幹の力がロスなく腕に伝わるほど、バットスピードは最大化されたのです。

これは、大谷翔平選手や村上宗隆選手のような一流打者のスイングをスローモーションで見るとよく分かります。下半身が始動し、少し遅れて体幹が鋭く回転し、その回転に引っ張られるように腕とバットがしなやかに出てきます。彼らはこの「力の波」を完璧に使いこなしているのです。

この研究は、我々が「美しいフォーム」と感じるものの正体が、物理法則に則った極めて効率的な力の伝達であることを、テクノロジーの力で証明したと言えるでしょう。

解説:明らかになったことと今後の可能性

この研究によって、私たちは「ホームランを打つための練習法」を、より科学的に考えられるようになりました。

明らかになったこと

  • 筋トレだけでは不十分: ただ筋肉を大きくするだけでなく、その筋肉を正しい順番で、連動させて使うトレーニングが不可欠。
  • 体幹の重要性: 体幹は、下半身で作った力を上半身に伝える「中継役」として極めて重要。腹筋や背筋だけでなく、体を捻る(回旋させる)ためのトレーニングが、バットスピード向上に直結する。
  • 効率的に力を伝えることで身体への負担が減ることで怪我のリスクも減らすことが可能となる。

小中学生でもできる!「力の波」体感トレーニング

  1. タオル素振り: 長いタオル(バスタオルなど)の端を結び、その反対側を持ってスイングしてみましょう。タオルの先端が「ビュッ!」と鋭い音を立てるように振るには、まさに「骨盤→体幹→腕」の順番で体をしならせる必要があります。手先だけで振っても、絶対に良い音は鳴りません。
  2. メディシンボール投げ: 少し重めのボールを使い、体を捻って壁やパートナーに投げる練習です。下半身で地面を押し、体幹の捻りでボールを投げる感覚を養うことができます。これは、力の伝達効率を高めるのに非常に効果的なトレーニングです。

見るべきポイント:3つのチェックリスト

選手の動きを以下の3つのポイントでチェックし、具体的なアドバイスにつなげましょう。

  1. ベルトのバックルが先にピッチャーを向くか? 腕や肩から振りに行かず、下半身から始動できているかを確認します。
  2. 胸は少しキャッチャー側に残っているか? 下半身と上半身の「捻転差(ねんてんさ)」が生まれている証拠です。これがパワーの源になります。
  3. バットが体から離れず、ムチのように出てくるか? 腕に力が入っていると、バットは遠回りします。リラックスして、体の回転に腕がついてくる感覚を教えます。

まとめ

今回は、科学の力で「ホームランの打ち方」に迫った論文をご紹介しました。

ホームランは、単なるパワーではなく、下半身から生まれた力を波のように伝え、バットの先で爆発させる「技術」である。

この研究は、その事実をデータで証明してくれました。テクノロジーは、これまで一部の天才だけが感覚的に掴んでいた「コツ」を、私たちに可視化して見せてくれます。

もちろん、野球の魅力はデータだけでは語れません。しかし、科学という新しい武器を手に入れた未来の選手たちが、どんな新しい野球を見せてくれるのか。そう考えると、ワクワクしてきませんか?

この記事が、あなたの「もっとうまくなりたい」という情熱の、新たな一歩に繋がれば幸いです。

【免責事項】 この記事は、特定の論文を基に、スポーツ科学に関する情報を提供することを目的としています。紹介するトレーニング方法は一般的なものであり、個々の選手の健康状態や体格を考慮したものではありません。トレーニングを行う際は、専門の指導者の下で、自身の体調に注意しながら安全に行ってください。この記事の情報に基づいて生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いません。

タイトルとURLをコピーしました