「もっと良い場所に立っていれば、あの失点は防げたのに…」 「パスをもらう時、どこに動けばいいんだろう?」
サッカーでは、ボールを持っていない時の「立ち位置(ポジショニング)」が、試合の結果を大きく左右します。でも、どこに立てば一番良いのかって、すごく難しいですよね? プロの選手でも、一瞬の判断で立ち位置を間違えてしまうことがあります。
もし、コンピューターが「ここが一番良い場所だよ!」と教えてくれたら、どうでしょう? 今回は、そんな夢のような技術に近づく、神宮司祐哉さんたちの最新の研究論文をご紹介します!
参照する論文紹介
- タイトル: サッカーにおけるポジショニングの修正を行う遺伝的アルゴリズムモデルの提案
- 著者/発表年: 神宮司 祐哉, 清 雄一, 田原 康之, 大須賀 昭彦 / 2024年1月 (情報処理学会論文誌 Vol.65, No.1, pp.23-33)
- URL/DOI: https://uec.repo.nii.ac.jp/record/2000110/files/4.pdf
- 論文の要点(3点):
- この研究が解決しようとしている課題は何か?: サッカーのポジショニングは、少しのズレで失点のリスクが大きく変わるのに、最適な位置取りを判断するのが難しいという課題。
- どのような方法で検証したのか?(技術的なポイント):
- 「Pitch Risk(ピッチリスク)」という、ピッチの支配状況、ゴールの確率、アシストの確率を組み合わせて失点のリスクを数値化する新しい評価方法を開発。
- この「ピッチリスク」を基準に、コンピューターが最適なポジショニングを探し出す「遺伝的アルゴリズム」という技術を使って、守備の立ち位置を修正するモデルを提案した。
- 結果として何が明らかになったのか?:
- 開発した「ピッチリスク」は、サッカー経験者の「危ない!」と感じる場所とよく一致することが確認された。
- 遺伝的アルゴリズムを使ったモデルは、ランダムに立ち位置を決めるよりも約3%も失点リスクを減らすことができ、選手たちが連動してより良い立ち位置を見つけられることが示された。
この論文で導き出される鉄則
鉄則①:「ピッチリスク」を常に意識する
研究では「ピッチリスク」という言葉が使われています。これは、ピッチ上の「危険度」を数値化したものです。論文上でピッチリスクが低い場所とは「最も近くにいる相手フィールドプレイヤーから距離が遠く、かつ、相手ゴールキーパーにもボールをカットされにくい地点」と定義されています。簡単に言えば、「そこにいると、相手にボールを奪われやすいか、シュートを打たれやすいか」という危険の度合いです。
良い選手は、この「ピッチリスク」を無意識に察知し、常にリスクの低い(安全な)場所に身を置こうとします。
【試合中に何を意識すればいい?】
- 守備の時: 「今、チームにとって一番危険なスペースはどこか?」「相手がパスを出したい場所はどこか?」を考え、そのスペースを埋めたり、パスコースを消す動きをしましょう。FWの選手であっても、相手のDFが自由にボールを運べる状況はチームにとっての「リスク」です。
- 攻撃の時: 「相手が密集していて、パスを出しても奪われそうな場所」はリスクの高い場所です。逆に、相手がいない広大なスペースや、パスを受けることで一気にチャンスになる場所は、リスクが低くリターンが大きい場所です。常に周りを見て、より「おいしい」場所を探し続けましょう。
鉄則②:「個人」ではなく「チーム」で連動する
研究では「遺伝的アルゴリズム」という技術が使われています。これは、たくさんの選択肢の中から、最適な組み合わせを見つけ出す方法です。サッカーに置き換えると、「チーム全員が少しずつ立ち位置を修正し合いながら、チーム全体として失点する確率が最も低くなる配置を見つけ出す」ということです。
つまり、自分一人が良いポジションにいるだけでは不十分で、味方の動きに合わせて、チーム全体で良い形を作ることが何よりも重要だということです。
【試合中に何を意識すればいい?】
- 味方が動いたら、自分も動く!: 味方が相手にプレッシャーをかけに行ったら、自分はどこに動けば相手のパスコースを限定できるか?味方がパスを受けるために動き出したら、自分はどこに動けば、さらにチャンスが広がるか?常に「味方の次のプレー」を予測して動きましょう。
- 声を掛け合う: 「右、切れ!」「裏、ケアしろ!」「スペース、あるぞ!」など、具体的な声掛けで、周りの味方と「今、どこが危険か」「どこにチャンスがあるか」という認識を揃えることが、チームの連動性を高める第一歩です。
解説:研究の背景と目的
サッカーの試合を見ていると、プロの選手たちがまるで磁石に引き寄せられるように、自然と「良い場所」に立っているように見えますよね。でも、その「良い場所」って、実はとても複雑な計算の上に成り立っています。相手の動き、ボールの位置、味方の位置、ゴールの場所…たくさんのことを一瞬で考えて、最適な立ち位置を見つけなければなりません。この判断が少しでも遅れたり、間違えたりすると、失点に繋がってしまうこともあります。
これまでのポジショニングの指導は、コーチの経験や感覚に頼る部分が大きかったのですが、「なぜその位置が良いのか?」を科学的に、そして客観的に示すのは難しいことでした。
そこで、神宮司さんたちの研究チームは、コンピューターの力を使って、この「良い立ち位置」を科学的に解明し、選手たちがもっと簡単に、そして正確にポジショニングを学べるようなモデルを作ることを目指しました。
解説:ここがスゴい!論文のポイント
この論文の「ここがスゴい!」ポイントは、大きく分けて二つあります。
- 「Pitch Risk(ピッチリスク)」という新しい評価方法!
- これは、サッカーのピッチ上のどこが「どれくらい危ない場所か」を数字で表す、まるで「危険度メーター」のようなものです。
- 鬼ごっこを想像してみてください。鬼がすぐ近くにいる場所は「危ない」ですよね? でも、鬼が遠くにいても、ゴール(捕まる場所)のすぐ前はやっぱり「危ない」です。この「ピッチリスク」は、鬼との距離だけでなく、ゴールに繋がる可能性(捕まる可能性)も考えて、どこが一番危ないかを教えてくれる、賢いメーターなんです。
- このメーターは、ピッチのどこを相手が支配しているか(Pitch Control)、そこからどれくらいの確率でゴールが決まるか(xG)、アシストに繋がるか(SxA)といった、たくさんの情報を組み合わせて計算されます。そして、実際にサッカーがうまい人たちが「ここが危ない!」と感じる場所と、このメーターの示す数字が、とてもよく似ていることが分かりました。

- 「遺伝的アルゴリズム」を使って、最適な立ち位置を探し出す!
- これは、コンピューターが「進化」する仕組みを使って、一番良い答えを探し出す、とても賢い方法です。
- ドッジボールで、みんなで「どこに立ったら一番ボールに当たらないかな?」と考えるゲームをするとします。最初はバラバラに立っていても、何度もゲームを繰り返すうちに、「ここに立ったらボールが来にくい!」という場所がだんだん分かってきますよね?
- 「遺伝的アルゴリズム」は、これと似ています。コンピューターの中で、たくさんの「立ち位置のパターン」をランダムに作ります。そして、それぞれのパターンが「どれくらいピッチリスクを減らせるか」を評価します。良いパターンは生き残り、悪いパターンは消えて、生き残った良いパターン同士を組み合わせて、さらに新しいパターン(より良い立ち位置)を生み出していくのです。これを何度も繰り返すことで、最終的に「失点リスクが一番少ない、チーム全員の立ち位置」を見つけ出すことができます。

この二つの技術を組み合わせることで、これまで感覚的だった「良い立ち位置」が、誰にでも分かりやすい「数字」と「最適な動き」として示されるようになったのです。
解説:明らかになったことと具体的な練習メニュー
この研究によって、コンピューターがサッカーの「良い立ち位置」を科学的に評価し、さらに改善するための具体的な方法を示すことができると分かりました。
- 「ピッチリスク」の有効性: サッカー経験者の感覚と高い一致度を示したことで、この「危険度メーター」が実際に役立つことが証明されました。
- 「遺伝的アルゴリズム」の可能性: チーム全員のポジショニングを同時に、しかも連動して改善できることが示されました。これは、一人ひとりの選手だけでなく、チーム全体として守備力を高める上で非常に大きな意味を持ちます。
【明日からできる!具体的な練習メニュー】
では、これらの「ピッチリスク」と「連動」の意識を高めるためには、どのような練習をすれば良いのでしょうか。
練習①:鳥かご(ロンド)で「リスク判断」を磨く
- 目的: 狭いエリアで、リスクの高いパス、低いパスを判断する能力を養う。
- 方法: 4対2や5対2などの鳥かごを行います。オニ(守備側)は、ボールだけでなく、「相手がどこにパスを出そうとしているか」を予測してコースを切ることを意識します。パスを出す側は、「相手の足が届かない安全な場所へ、味方が受けやすいパス」を出すことを徹底します。
- 指導者のポイント: ボールを奪われた時、「なぜ奪われた?」と問いかけましょう。「パスが弱かった」だけでなく、「相手との距離が近すぎた(リスクの高い場所だった)」など、状況判断のミスに気づかせることが重要です。
練習②:ハーフコートゲームで「連動」を体に染み込ませる
- 目的: チーム全体でスペースを埋め、チャンスを作り出す動きを学ぶ。
- 方法: 6対6や8対8など、ハーフコートでのゲーム形式の練習を行います。
- 指導者のポイント: プレーを時々止めて、状況を解説しましょう。「今、〇〇君がボールホルダーに寄せた動きは良かった。その時、周りの選手はどこにポジションを修正すれば、相手はもっと苦しくなったかな?」と問いかけ、選手たちに考えさせます。成功したプレーも「今の連動は良かった!」と具体的に褒めることで、選手の理解が深まります。
練習③:数的優位・不利トレーニングで「頭」を使う
攻撃側には: 「どうすれば、この数的優位を最も活かせるか?誰がフリーになっている?」と問いかけ、チャンスを最大化する判断を促します。
目的: 状況に応じて、最も優先すべきプレー(リスク管理 or チャンス創出)を判断する能力を養う。
方法: 攻撃側3人、守備側2人の「3対2」や、攻撃側4人、守備側3人の「4対3」など、意図的に数的な差がある状況を作ります。
指導者のポイント:
守備側には: 「失点しないために、まずどこを消すべきか?シュートコース?決定的なパスコース?」と問いかけ、リスク管理の優先順位を学ばせます。
まとめ
神宮司祐哉さんたちの研究は、これまで感覚的だったサッカーの「立ち位置」に、AIという新しい光を当ててくれました。彼らが開発した「ピッチリスク」と「遺伝的アルゴリズム」は、選手たちが失点のリスクを減らし、より良い守備をするための強力なツールとなる可能性を秘めています。
この技術が広まれば、未来のサッカー選手たちは、まるでゲームを攻略するように、効率的に「良い立ち位置」を学び、チーム全体で賢く守れるようになるかもしれません。科学の進歩が、私たちのサッカーをさらに進化させることに、これからも大いに期待しましょう!
【免責事項】 本記事は、公開された研究論文に基づき、その内容を一般の読者向けに分かりやすく解説することを目的としています。医療行為や診断、治療に関するアドバイスを提供するものではありません。特定の症状や疾患については、必ず専門の医療機関にご相談ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害についても、当方は一切の責任を負いません。


