サッカー選手がキャリアを重ねる中で直面する課題の一つに、パフォーマンスの維持があります。特に、肉離れのような怪我のリスクは年齢とともに高まり、選手生命を脅かすことも少なくありません。もし、日々のトレーニング習慣を最適化することで、年齢を重ねてもパフォーマンスを落とさず、怪我のリスクを減らせるとしたら…?
今回は、そんなアスリートの悩みに光を当てる、最新のスポーツ医学研究をご紹介します。
参照する論文紹介
- タイトル: Enhancing active aging through exercise: a comparative study of high-intensity interval training and continuous aerobic training benefits
- 著者/発表年: Sahin et al., 2025 (および Pan et al., 2019)
- URL/DOI: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12171152/
- 論文の要点(3点):
- この研究が解決しようとしている課題は何か?: 加齢に伴う身体能力(筋力、心肺機能、バランス能力、認知機能)の低下に対し、HIITとCATのどちらが、あるいはどのように組み合わせることで、より効果的な運動介入となるのかを明らかにすること。
- どのような方法で検証したのか?(技術的なポイント): 高齢者を対象に、高強度インターバルトレーニング(HIIT)と継続的有酸素トレーニング(CAT)の2種類の運動様式を比較し、VO2max、筋力、認知機能(MoCAスコア)、転倒リスクなどの指標を用いて効果を評価した。
- 結果として何が明らかになったのか?: HIITはVO2max、筋力、認知機能(記憶力、実行機能)の向上に優れ、転倒リスクを低減する効果も示した。CATは心肺機能向上に加え、うつ症状の軽減に効果的であった。両者ともに高齢者の健康と活動的な老化を促進する上で重要な役割を果たすことが示された。
この論文、すごさを3行で言うと
- 高齢者でも、適切なトレーニングで身体能力は大きく向上する!
- 短時間で高負荷の「HIIT」は、筋力・心肺機能・認知機能まで高める万能薬。
- 「継続的有酸素運動」は、心肺機能だけでなく心の健康にも効果的で、どちらも重要。
解説:研究の背景と目的
「年齢には勝てない」――そんな言葉を耳にすることがあります。しかし、現代のスポーツ科学は、その常識を覆そうとしています。高齢化が進む社会において、健康寿命の延伸は喫緊の課題であり、スポーツを楽しむ人々が増える中で、年齢を重ねても高いパフォーマンスを維持したいというニーズも高まっています。
この研究は、まさにこの課題に焦点を当てています。加齢に伴う身体能力の自然な低下(筋力、心肺機能、バランス能力、さらには認知機能など)に対して、どのような運動介入が最も効果的なのか?特に、近年注目されている「高強度インターバルトレーニング(HIIT)」と、昔ながらの「継続的有酸素トレーニング(CAT)」の二つの主要な運動様式を比較し、それぞれのメリットと効果を明らかにするこを目的としています。
解説:ここがスゴい!技術のポイント
この研究自体は、特定のデジタル技術(機械学習やセンサー)を直接用いたものではありませんが、その成果は、デジタル技術と組み合わせることで、アスリートのトレーニングを劇的に進化させる可能性を秘めています。
この研究で注目すべきは、運動の効果を客観的なデータで評価している点です。
- 心肺機能の評価(VO2max): 最大酸素摂取量(VO2max)は、全身持久力の指標として広く用いられます。これは、トレーニング中の心拍数や酸素消費量をリアルタイムで測定できるウェアラブルセンサーや呼気ガス分析装置といった技術で精密に計測されます。これらのデータは、トレーニングの強度設定や効果測定に不可欠です。図:VO2max測定のイメージ。マスクを装着し、運動中の酸素摂取量を計測する。
- 筋力測定: 研究では筋力の向上が示されましたが、これは通常、専用の筋力測定機器(例:等速性筋力計)や、トレーニング中の挙上重量、反復回数などのデータを記録・分析することで評価されます。スマートフォンのアプリや専用デバイスと連携するトレーニング機器を使えば、これらのデータを自動で収集し、変化を可視化できます。
- 認知機能の評価(MoCAスコア): 認知機能は、アスリートのパフォーマンス、特に状況判断や戦術理解において非常に重要です。MoCA(Montreal Cognitive Assessment)のようなテストは、デジタル化されたツールやアプリを通じて実施することも可能であり、経時的な変化をデータとして追跡できます。
- 転倒リスクの評価: バランス能力や歩行パターンは、センサーを内蔵したインソールやモーションキャプチャ技術を用いることで、詳細な運動データを取得できます。これらのデータは、転倒リスクの予測や、それを軽減するための個別トレーニングプログラムの作成に役立ちます。
もし、これらの客観的なデータを日々収集し、機械学習モデルで解析すれば、「この選手のVO2maxが〇〇%低下したら、パフォーマンスが落ちる兆候」「筋力テストの数値が〇〇以下になったら、肉離れのリスクが高まる」といった予兆を、選手一人ひとりに合わせてパーソナライズして予測できるようになるでしょう。これはまさに、デジタルエンジニアリングがスポーツ医学に貢献できる最先端の領域です。
解説:明らかになったことと今後の可能性
この研究で明らかになったのは、年齢を重ねても、適切なトレーニングを継続することで、身体能力の低下を大幅に抑制し、むしろ向上させることが可能だという希望に満ちた事実です。
- HIITの多面的な効果: 短時間で高負荷と低負荷を繰り返すHIITは、心肺機能(VO2max)を大幅に向上させるだけでなく、筋力強化、さらには記憶力や実行機能といった認知機能の改善にも効果的であることが示されました。サッカーの試合中、瞬時の判断や素早い切り替えが求められる場面で、認知機能の維持は非常に重要です。また、バランス能力の向上により、転倒リスクの低減にも寄与します。これは、高齢アスリートが怪我なく競技を続ける上で非常に大きなメリットです。
- CATの継続的な恩恵: 一方で、ウォーキングやジョギングのような継続的な有酸素運動(CAT)も、心肺機能の向上に加え、うつ症状の軽減に効果があることが示されました。身体的な健康だけでなく、精神的な健康もアスリートのパフォーマンスを支える重要な要素です。
この技術が実用化されれば、未来のスポーツ現場は大きく変わるでしょう。
- 個別最適化されたトレーニング: 選手一人ひとりの身体データ、トレーニング負荷、回復状況、さらには精神状態までをリアルタイムでモニタリングし、AIが最適なトレーニングメニューを提案する。これにより、過度なトレーニングによるオーバートレーニングや怪我のリスクを最小限に抑えつつ、最大のパフォーマンスを引き出すことが可能になります。
- 怪我の予防と早期発見: 肉離れや関節の痛みなど、怪我の予兆をデータから早期に検知し、未然に防ぐための介入ができるようになります。これは、選手のキャリアを長く、そして安全に保つ上で革命的な変化をもたらすでしょう。
- 長期的なキャリアプランニング: 若手選手からベテラン選手まで、年齢に応じた最適なトレーニング戦略をデータに基づいて立案し、長期的なパフォーマンス維持と向上をサポートできるようになります。
考察:現場で使う上での課題は?
この素晴らしい技術を実際のスポーツ現場に導入するには、いくつかの現実的な課題も考慮する必要があります。
- コストとアクセス: 高度なセンサーや分析システム、AIを搭載したソフトウェアの導入には、初期費用と運用コストがかかります。すべてのチームや選手が平等にアクセスできるわけではないため、普及にはコストダウンや補助金の仕組みが必要になるかもしれません。
- データのプライバシーと倫理: 選手の生体データやパフォーマンスデータは非常に機密性が高く、プライバシー保護が重要です。データの収集、保管、利用に関する明確なガイドラインと倫理規定の策定が不可欠です。
- 運用と専門知識: 収集された膨大なデータを適切に解釈し、トレーニングに反映させるためには、スポーツ科学、データサイエンス、コーチングの専門知識を持つ人材が必要です。単にツールを導入するだけでなく、それを使いこなすための人材育成が重要になります。
- 選手の受容性: 選手自身がデータに基づいたトレーニングに納得し、積極的に取り組む姿勢も重要です。常にデータに監視されていると感じさせず、あくまでパフォーマンス向上のためのサポートツールとして受け入れてもらうためのコミュニケーションが求められます。
これらの課題を乗り越えることで、テクノロジーはスポーツの未来をより豊かにするでしょう。
まとめ
今回ご紹介した研究は、年齢を重ねてもアスリートとして輝き続けるための具体的な道筋を示してくれました。特に、HIITとCATという異なるトレーニング様式が、身体的・精神的な健康に多角的に貢献することが明らかになりました。
そして、これらの知見にデジタルテクノロジーが加わることで、トレーニングは「勘」から「データ」に基づく個別最適化へと進化し、怪我の予防やパフォーマンスの長期維持がより現実的になります。
未来のサッカー選手たちは、年齢を理由に引退を考えるのではなく、データとテクノロジーを味方につけ、より長く、より高いレベルでプレーを続けることができるようになるかもしれません。スポーツとテクノロジーが融合する未来に、私たちは大きな期待を抱いています!
免責事項: 本記事は、特定の論文に基づいたスポーツ科学に関する情報提供を目的としています。ここに記載された情報は一般的なものであり、個人の健康状態やトレーニングプログラムに適用する際には、必ず専門の医師やトレーナーにご相談ください。


